ハメル(キューバ)

Hamel

 キューバにおいてHamel というとサンテリア教と呼ばれるアフリカ起源のヨルバ系の独特の宗教の聖地であるのだが、実際にはアーティストの街という感覚だ。なお現地に行くときにはガイドブックによっては Hamel Alley と書いてあるのが実際にはそんな英語はほとんど通じず、Callejon de Hamel カジェホン・デ・ハメル とスペイン語で言わないとわかってもらえない。

 さて実際にタクシーでHamelに着くとなんといっても目に入るのは街がド派手にペイントされ廃材を上手く使ったオブジェ群。どうしてサンテリア教とこのようなアートが結びついたのかは全く分からなかったが後で色々調べてわかったのはサルバドール・ゴンサレス・エスカローナというアーティスト(画家、彫刻家、鉄材アート作家であるらしい)がアフロキューバンカルチャーを広めるために様々オブジェや奇抜な絵で街を埋め尽くしていったらしい。実際にこれらのアートがアフロキューバン的なものかは別として、このような独自のアートの街となったおかげで音楽も有名になる一翼を担っているのは事実だろう。

Afrocuban music

今まで撮影に行くにはそれなりに「撮影するぞ」という気持ちを持って出かけてきてはいるのだが、今回のHamelだけはちょっと違っている。実をいうと昔から音楽をやってきており(今は主にジャズギターを学んでいる)大学の終わりごろからラテンジャズに興味を持っていた。Tito Puente(プエルトリコ人だが)から聞き出してIrakereそしてIrakere出身の各プロジェクトまで聞いてキューバのラテンサウンドに憧れていたのである。ラテンジャズの聖地であるキューバ、そしてその聖地でライブを楽しむのは昔に夢を見ていたことなのである。これは知っている人でないとわからないかもしれないが、なんといってもうねるようなグルーブがスゴイ!ラテンジャズのビッグバンドとなるとドラム&ベースだけでなく分厚いパーカッション群などがホットなグルーブを作り出し、その上をソロイスト達が泳ぐように音を並べていく。それはまさに音楽という波の上にサーファー達がクールに乗っている状態なのだ。そしてサーファー達は決して波の上でバランスを崩すことはない。どんな波であっても。このようなビッグバンドはリスナーサイドからすると路上の小規模編成とは全く別のリズム感覚なのである。

Anniversary day

Hamelでは毎週日曜の午後にルンバライブが行われる。準備の様子も撮影しようと今回は昼少し前に現地に到着した。そして現地の若者からスペイン語交じりの英語でよくわかりにくいがどうやら今日はHamelの誕生27周年の日であり、そのAnniversary Liveでいつもより長く行われるという話を聞いたのだった!ツイテル!思わず心の中でガッツポーズをした。そして実際にネットで見るより派手な格好で最後はキューバの有名バンド、オマケでマリアッチまで盛りだくさんのライブ日和となったのである。

準備

ライブ会場の床がペイントされる。元の床はペイントされていたような感じではないように見えるので、おそらく一年すると消えてしまい毎年塗りなおしているのかもしれない。これはキューバの国旗をモチーフにした絵のようだ。

 入り口付近ではおそらくハメルのマスコット的なマネキンにスタッフが帽子を被せている。これが毎週のことなのか、年の一度のことなのかは不明であったのだが、盛り上がる会場にマネキンもお洒落をしているようだった。スタッフは白地に赤のチェック柄の服を着ている。会場に奇抜なファッションの方が多くアーティストの街であるにはこの制服はちょっとダサく地味な印象を受けた。しかしこの疑問については数時間後に解決となる鍵を発見した。ライブ中に会場内にあるバーでモヒートでも飲んで喉を潤そうは中に入ると入り口に同じような赤チェック柄の人形が出迎えてくれた。しかしその人形はただの人形という印象を受けなかったのである。人形の前に食べ物が捧げられている様子からして、きっとただの人形ではなくサンテリア教の神の一人では?と感じたのである。きっとここのスタッフの服装はサンテリアの神のコスチュームをまねているのだろうと推測した。そして同じような神様がハメルにきっと何体もあるのではないかと思ったのである。一般にサンテリアの神は白の服装のケースが多いので確信はなかったのではあるが、帰国してわかったのはチャンゴ(chango)と呼ばれる神は赤と白のモチーフの服装で表現されるのがほとんどだったのである。サンテリアは多神教であり、オバタラやエレグアと呼ばれる様々な神がいるのだがハメルの場合はきっとチャンゴを崇めている聖地なのであろうと推測した。

 会場に様々な楽器が運び込まれる。そういうのを眺めていると一人の老紳士が姿を現した。派手な格好が多いキューバのハメルでも、どことなくオーラを感じさせる雰囲気なのだ。真っ白なスーツに靴はもちろん白!白に青のラインが入った帽子が白一色に対し爽やかなお洒落感覚を引き出している。それだけならクールな洒落た老紳士となるだけだが、首から下げられた金のデカい飾りものが只者ではない派手な雰囲気を出していた。近寄って身振り手振りでペイントされた壁をバックに彼の姿をカメラにおさめさせていただいた。そうこうしていると現地の青年がやってきて声をかけてきた。どうやら私の目の前にいる老紳士は名を Pedro Celestino Fariñas といい、地元のハメルでは超有名なミュージシャンだという。なるほどオーラを感じたのはそういうことだったのかと妙に納得がいった。今日のライブのステージに立つのかと期待したのだが結果的には今回はステージに立つことはなかった。どうやらスペシャルなライブのためにゲストとしてお呼びしただけなのかもしれない。帰国して色々調べたら確かにCDやら映像がある。若い時の作品が見つからないのだが、ひょっとしてキューバにおいてはデジタル化というのが遅れていたために最近の作品しかネット上にはないのかもしれない。


Rumba Live

 最初から激しいリズムでライブが始まる。どういうわけか最初のグループは迷彩服を基調にした衣装で、ライブ内にサンテリアの踊りを盛り込んでいた。おそらくこのバンドが普段ここでライブを行い、サンテリアダンスを披露するのだろう。そしていくつかの地元バンドが演奏を行い、最後にはどうやらキューバで有名らしいグループの演奏となる。演奏中のハメルは地元の人だけでなく外国人観光客も集まりパーティー会場と化していた。酒を片手にはもちろんのこと、マイマラカス持参で参戦する人、誰彼構わず周りの人と踊る人と様々な人でごった返している。こういうキューバ人を見ると日本とは違ってライブを受け身的ではなく能動的に楽しんでいるのだなーと感じるのである。そしてなんといっても特筆すべきはファッション!会場の地元の人々はとてもファンキーで日本なら恥ずかしいようなド派手な衣装だったりヘアスタイルだったりする。ここでは日本人のような地味の人は逆に目立ってしまうほどなのだ。ハメルはアーティストが集まる街でもあるためきっとそのような人が集まるのだろう。もしハメルで馴染みたいのであればドレッドヘアにでもし、どぎついカラーの眼鏡で乗り込むのが手っ取り早いのかもしれない。きっとここはファッションにおいてもキューバの最先端なのだろう。

 ライブが終わると会場外からソンブレロ(メキシコのつばの広い帽子)を抱えたマリアッチ(メキシコスタイルの楽団)の一団がやってきた。これは今までの熱いライブとは全く違ったしっとりと聞かせる演奏で、熱くなった観客に対し食事の最後に供されるデザートのようにしっとりと甘い旋律を聞かせるのである。こちらも地元の人には大好評でマリアッチを知らない自分はよくわからないのだが、ハメルの人々がマリアッチ楽団と一緒になってコーラスを歌うのはとても聞きごたえのある素晴らしい瞬間でもあったのである。

 ハメルは実に素晴らしい音楽やアートを発信しているのだが、元はここで行われるサンテリア教であった。現在もサンテリアの聖地でもあるのだが現代化されている。サンテリアの宗教音楽が今のルンバのルーツであるのだ。しかし昔ながらのサンテリア儀式もキューバのどこかで残っているのかもしれないのだが、今のキューバ人の明るい性格上、ダンスの神様のようになっているのかもしれない。

ハメルで感じたのは、キューバ人はとてもラテン音楽を心から愛しており音楽が聞こえてくると体が勝手に反応して踊ってしまう。そして物資が少なく生活が大変なときもあるのだろうけど、彼らに言わせれば、きっと「貧しくても、音楽があって好きなだけ踊っていれば幸せなんだよ」そんな声が聞こえてくるかのようでもあった。

ホムペの方もよろしく。

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Asahiko Takahashi
  • Asahiko Takahashi
  • Photographer & Doctor 日経ナショナルジオグラフィック写真賞2019ピープル部門 最優秀賞受賞。少数民族やその祭りなどに興味を撮影を行っている。主なフィールドはシーク教、遊牧民、北ベトナム、雲南省、貴州省、チベットエリアなど。

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